Masuk森の奥は昼にも関わらず暗く、頭上の枝葉が厚く茂っていた。
陽光はほとんど遮られ、差し込むわずかな光の筋が、細かな「だから言ったでしょう! あの川は東に曲がり始めていたって!」
「いいや、あれは確かに北の方向に伸びていたね。太陽の位置を見れば、簡単にわかるだろ」 「あなたの感覚ほど信用ならないものはないわ! 気まぐれな森は私たちを二人は言い合いをしながらも、その歩みを止めることはしない。
先を急ぎたい気持ちは共に同じだった。 フィオラは鋭い眼差しで獣道を
やがて、木々の間に小川が現れた。
流れを「ここを渡らなければいけないみたい。危なっかしいわね……」
そう「きゃっ――!」
細い身体が横へ傾き、水面が眼前に迫っていた。 その瞬間、力強い手が彼女の腕をがっしりと「危ない!」
セリュオスの声がフィオラの耳を打った。 丸太の端で踏ん張ったセリュオスは、全身で彼女を引き寄せる。 ギリギリのところで体勢を立て直したフィオラは荒く息を吐いた。「……っ、もう離してよ!」
勢いよく腕が振り払われた。 だが、掴まれていた腕はまだ微かに震えているように見えた。「無理するなよ。フィオラに怪我されてしまうと俺が困る」
「……余計なお世話よ!」 フィオラは口で突き放しているが、その耳の先まで赤くなっているのをセリュオスは見逃さなかった。森を抜ける頃には、空は茜色に染まりつつあった。
夕暮れの風はやや肌寒く、背の高い草木の間から虫の奏でる音楽が響いていた。 二人は山道にひとまず荷を置き、腰を下ろした。その時、フィオラの荷物が傾き、中から小さな布飾りが転がり落ちた。
草の上に舞い落ちたそれを、セリュオスが拾い上げる。 手のひらに収まる布きれには、拙いながらも丁寧な「これは……?」
セリュオスが問いかけると、フィオラは目を伏せて小さく息をついた。「返して。これは……イヴェリナがくれたのよ。いつも私の背中を追いかけてきた、妹みたいな子」
「大事なものということだな」 セリュオスは飾りを両手で包み込むように持ち、汚さぬようそっと差し出した。 その仕草には不器用な気遣いが「当然よ。私が、あの子たちを守らなければならなかったのに……!」
「それなら、必ず取り返さなければならないな……。俺もリオネルディアの村人たちが奪われたとしたら、同じ気持ちだっただろう」 言葉に込められた響きはまっすぐで、セリュオスの瞳は優しくフィオラを捉えていた。 フィオラはほんの一瞬、セリュオスの眼差しを見たが、すぐに顔を背けて布飾りを握り締めた。「……あなたに言われなくても、わかってるわ。ほら、町はすぐそこよ」
吐き捨てるような言葉ではあったが、彼女の声には苛立ちと共にわずかな安堵も滲んでいるような気がした。二人は立ち上がり、山道を登っていくと、空気がぐっと冷え込んできた。
松の間を抜ける風が衣を揺らし、遠くで岩肌を削りそうなほどの滝の そして、山の
「……ドワーフの町ね」
フィオラが低く呟いた。 彼女は腕を組んで街を見下ろし、少しだけ口元を引き結んでいる。そこは切り立った岩山の麓に寄り添うように築かれた石造りの町だった。
大地を削り、積み上げられた灰色の石壁、屋根には赤茶の瓦。 煙突からは黒々とした煙が絶え間なく立ち上り、金属を打ち鳴らす音が風に混じって響いてくる。「ここが、ドワーフの町……」
セリュオスは思わず息を「……やっぱり、好きになれない」
一方で、隣に立つフィオラは眉を寄せていた。 ぽつりと漏れた呟きに、セリュオスが横目でフィオラを見やる。「何がだ?」
「この空気。土と煙と……「まあ、エルフにとってはそうかもしれないな。でも……あの鉄があって、あの煙があって、俺たちの剣や鎧が生まれることになるんだろう?」
その言葉に、フィオラは口を町の入口へと続く石畳の道を下りながら、彼女は周囲を気にして終始落ち着かない様子だった。
道端で遊んでいたドワーフの子どもたちが、珍しい訪問者に目を丸くして見つめてくるのだ。その視線に気づいたフィオラは、僅かに肩をすくめ、耳を隠すように髪を下ろした。
セリュオスはそんな彼女の仕草を見て、何でもない風を装って言う。「大丈夫だ。お前を傷つけようなんて思ってるやつはいないさ」
「……ドワーフが悪い種族じゃないのはわかってるわよ。でも……この視線が落ち着かないのよ」 小さく吐き出された本音に、セリュオスは一歩だけ彼女に寄り添い、そのまま歩調を合わせることにした。 打ち鳴らされる
まず二人が足を向けたのは、武具屋だった。
店の奥からは鉄槌の音と共に赤々とした炉の熱気が漂ってくる。 並べられた剣や斧は重厚で実用的、装飾よりも頑丈さを優先した造りだ。 セリュオスは一本の剣を手に取り、目を細めた。「すごい……。まるで鍛え方が違うな。これなら何十年戦っても壊れないかもしれない」
「……重そう。私用の弓矢か短剣は、売ってなさそうね……」そっけなく言いながらも、フィオラは棚の奥に飾られた短剣を見つめていた。
柄に細工された模様は意外にも繊細で、森の草花を思わせる。 そんな自分の視線に気づかれるのが恥ずかしかったのか、彼女はすぐに顔を背けてしまった。 店を出ると、今度は市場を
「鉱山さえ取り戻せりゃもっと安くなるのにな……」
「魔王軍め、俺たちの誇りを奪いやがって……」 耳に入るそんな声に、セリュオスは無意識に拳を握りしめた。 フィオラも横目で見て小さく呟く。「こんなところでも魔王軍の被害が出ているのね……。奪われて、嘆いて……」
「でも、俺たちはそれを取り返すために戦おうとしている。大事なのはそこじゃないのか?」 「……あなた、本当に前向きね」 皮肉を込めたように言われたような気がしたセリュオスは肩を「水、いるか?」
セリュオスが買った水筒を差し出すと、フィオラは驚いたような顔をしてから、そっぽを向いて受け取った。「……ありがと」
「なんだよ、その言い方」 「別にいいでしょう。ちゃんと感謝を伝えたんだから」 「まあ、それもそうか。むしろ、初めて感謝されたことを喜ぶべきだったか」セリュオスは彼女の頬が赤らんでいたように見えたが、気づかないフリをして笑うことしかできない。
やがて夜がやって来ると、二人はすでに騒がしくなっている酒場の扉を高評価のレビューやいいね、コメントをいただけると、続きを書くモチベーションを維持することができそうです! できるだけ長く書き続けたい作品ですので、応援よろしくお願いいたします!
オルデリウスの観測所のガラス窓から見上げる樹海は、広大で美しい未知の世界だった。 しかし、まだその領域に人類が踏み出していい土地に変わっているのかどうか、セリュオスにはわからなかった。「……もうそろそろ、人が住めるようになっている頃合いかしら……」 ルキシアナは胸を高鳴らせているように見えたが、それとは対称的にやや慎重な様子だった。「一つ一つ、外の状況を確認してみるしかないんじゃないか?」 「それなら、ゼルフ3号が確認して来るであります!」 セリュオスが提案した途端、ルキシアナの後ろから魔王討伐の立役者がひょこっと顔を出した。「そうね。ゼルフ3号に外の環境の安全性を測定してもらうのが一番か……」 「――バビュン!」 とゼルフ3号は颯爽と古びた昇降機に乗り込み、外の世界へと飛び出していく。 ゼルフ3号は外の世界を飛び回り、入念にその情報を集めて回っているのが、ガラス窓ごしに見て取れた。 すると、ゼルフ3号が収集した空気の温度や湿度、毒性等を示す数値がルキシアナの手元の端末に表示されていく。 それを後ろから覗き込み、セリュオスとエレージアも緊張の面持ちで数値を確認する。「うん……空気の浄化は十分に進んでいるみたい。毒素はもうゼロになってる。これなら、ウチらも安心して外に出られるわね」 ルキシアナがゼルフ3号と同期した端末を見ながら言った。 セリュオスが外を見ると、ゼルフ3号の羽ばたきは力強く、樹海の間を縫うように進んでいる。 「ですが、まだ小さな確認しかできていないであります。植物も芽吹いていますが、ここに人が住むとなると、水と安定的な食事を用意するのが不安要素であります」 その瞬間、セリュオスは驚愕した。 ルキシアナが持つ端末から聞こえた声は、ゼルフ3号のものだったのだ。 どうやら遠隔で音声が届くようになっているらしい。 ルキシアナは真剣な表情で返答する。「ウチがネクロラドで造った種子があるから食事のほうは問題ないとして、あとは水問題を解決すれば居住環境として十分に安定するはずね」 「……むむっ! 水の流れる音を検知したであります!」 「今すぐどこにあるか報告して! それは支流かもしれない。もしも広い河川が見つかれば、現状気になっている問題はすべて解決
闘技場に立つ五人と一人。 五人はセリュオスたち勇者パーティ。 そして、残るもう一人は魔王オルデリウスだ。 エレージアの魔法で縛られたまま、未だにそれを解くことができないでいる。 そんな中、魔王に近づく影が一つあった。 対魔王用の兵器を携えて歩くその姿は、ゼルフ3号のものだ。 だが、オルデリウスは一切の恐怖も焦りも見せることなく、むしろようやくこの時を迎えられると満足そうな表情をしている。「マスター、合図をお願いするであります」 「ええ、ゼルフ3号。間違いなく、アンタの力だけじゃ魔王に止めを刺すことができない……。でも、アンタの開いた突破口はセリュオスが通る道になる……!」 「承知しているであります」 ルキシアナはゼルフの覚悟を聞き届け、ついに気持ちを固めたようだ。「3……」 ルキシアナが口ずさむカウントに合わせて、ヴァルディルが静かに頷く。「2……」 エレージアは優しく微笑みながら、魔王の姿を見つめている。「1……」 セリュオスは仲間の力をすべて込めた聖剣を構えて、その瞬間を待っていた。「……いっけぇぇええええええ!! ――対魔王用殲滅砲ゼルフ・キャノンMK-Ⅲ! ファイナルゥゥ、グレエエエドォォォッォォ!!!――」 闘技場にルキシアナの怒号が響いた。 それと同時に、ゼルフ3号の胸から一条の光が放たれる。 かつて中層でドヴォルグラスを焼き払ったそれは、ルキシアナがさらに改良を加えることで、威力は桁違いになっていた。 閃光が魔王の身体を完全に覆い隠し、遥か彼方まで光は伸びていく。 そして、眩い光が落ち着くと、そこに残されたのは魔王としての威容が見る影もなくなったオルデリウスだった。 「これが……、人の、到達点か……」 その声には深い響きがあり、同時に喜びが混じっているように見える。 オルデリウスの身体はすでにボロボロになっているはずだが、その意識はまだ残っているようだ。「オルデリウス……」 「どうした、勇者よ……? 早く、我に止めを……、刺すのだ」 痛ましい見た目に関わらず、喜びに満ちたような表情になっていることがセリュオスにはやはり理解できなかった。「これから、お前の望んだ世界ができあがる。それは魔王の犠牲の上で、創られた新た
魔王城の地下闘技場――その空間全体が勇者と魔王の異様な圧力を帯びて、震えていた。 天井の高いアーチ状の梁に、微かに光る蛍晶鉱石が並び、空気は静寂と緊張に満ちていた。 覚醒したセリュオスの聖剣がその胸の前で輝き、仲間たちの力を宿した光を放っている。「この短時間で目覚ましい成長を見せてくれた。それでこそ、勇者であろう……」 オルデリウスが歩みを進め、セリュオスと向かい合う。 その男は全身から圧倒的な存在感を放ちながら、微笑んでいた。 魔王の目には、この瞬間を楽しみにしていたという期待の光が宿っている。「待たせすぎ!」 「あなた、大して何もしてなかったじゃない……」 なぜか、偉そうな態度を取っているルキシアナにツッコミを入れたのはエレージアだ。「ウチはちゃんとゼルフ3号に指示出してましたー! ねえ!」 ルキシアナは悪びれることもなく、魔王の力を押さえていたであろうエレージアに渡り合おうとする。 とは言っても、指示を出していたからとして、彼女が何もしていなかったという事実は変わらないと思うのだが。「ゼルフ3号が戦えるのは、マスターのおかげであります!」 「ほらぁ!」 「機械に気を遣わせるなんて、悲しくないの?」 エレージアがかなり辛辣なことを言っている気がしたが、セリュオスは気にしないことにした。「手加減してくれていたとはいえ、魔王の力は強大だったぞ」 手加減ということは、魔王もセリュオスの覚醒を待つ間の退屈凌ぎくらいに考えていたのだろうか。「すまない、本当に助かった……」 「礼なら、すべてを終らわせてから聞かせてもらおうか」 そう告げるヴァルディルの顔にも疲労の色が濃くなっている。 それだけ、セリュオスが覚醒するのを待って、魔王と戦っていてくれたということだ。「わかってる。みんな、ここからが本番だっ!!」 「今こそ死力を尽くそう!」 「魔王を倒すわよ」 「ウチらに任せなさい!」 「ゼルフ3号、本気モードに移行するであります!」 セリュオスが声を張り上げると、四人が返事をしながら、魔王に突っ込んでいく。 まずは、ゼルフ3号が前衛となって魔王の動きを牽制し始めた。 縦横無尽に飛び回る機械の軌道が、オルデリ
セリュオスは剣を握る手に力を込めて、二つの影と距離を詰めた。 俊敏な動きを見せるミュリナの影が宙を切り裂き、赤黒い炎を宿したアベリオンの影も同時に迫る。「《ルクス・クトゥム》!」 何とか使い慣れた勇者の盾を出現させて、セリュオスはその攻撃を受け止めるが、どちらも恐ろしく強大な力だった。 よくよく考えれば、ただ彼らの力を使おうとしただけで、制御できるわけがなかったのだ。 ミュリナの影が素早く動き回り、セリュオスに隙を与えてくれない。 影の鎖が空間を引き裂くように振るわれ、セリュオスはそれを躱すために後方に跳ねる。 しかし、跳ねた先にはアベリオンの赤黒く燃える槍が立ちはだかった。 赤黒い炎は熱を帯びているわけではないのに、身体の奥まで圧迫されるような恐怖を感じさせる。「ぅぐっ……!」 セリュオスは身を翻し、剣で鎖を斬ろうとするが、ミュリナの影は風のように素早く、攻撃を寄せ付けない。 どの角度から攻め込んでも、影は微妙にずれ、剣はただ空を切るばかりだ。 さらに、アベリオンの影が、槍に炎を纏わせながら押し寄せて来る。 硬い鎧のように見えるその体躯は、剣で叩き斬ろうとするセリュオスの力をほとんど受け流してしまう。 セリュオスが力を込めれば込めるほど、剣先が弾かれる感覚だけが手に残り、焦りと苛立ちが心を支配する。「……まだ、まだ制御できない!」 胸中で叫び、セリュオスは必死に呼吸を整える。「力だけじゃ、ダメよ!」 どこかでエレージアの声が聞こえたような気がするが、今は構っている余裕はなかった。 二つの影は一切の容赦なく、セリュオスの隙を突くように迫って来る。 素早いミュリナの影は縦横無尽に動き回り、硬いアベリオンはこちらの動きを読んで逃げ先を封じてくる。 セリュオスの動きは次第に追い込まれ、足元に小さな炎の跡が残るたび、心臓の鼓動が早くなった。「こんなにも、……ミュリナとアベリオンの力は、厄介だったのか……!」 セリュオスは思わず叫ぶ。 ダルクとフィオラの力を駆使しても、この二つの影の速度と硬度には到底及ばない。 戦いの中で自らの未熟さを痛感し、仲間の力の重要さを身をもって理解する瞬間だった。 闘技場の空気は
魔王の魔力が味方に向かってくる中、セリュオスは剣を握り直した。 自分の中には、下層で使えるようになったフィオラの力、そして中層で使えるようになったダルクの力が宿っている。 身体の奥で二人の力が疼き、セリュオスの意思を待っていた。 だが、一抹の不安がセリュオスの心をよぎっていた。 ミュリナとアベリオンの力はどうやっても使えるようになっていなかったのだ。 それでもセリュオスは己の心を奮い立たせて、魔王に向かって踏み出す。「よし、行く……!」 剣先から風が渦巻き、フィオラの力が周りの空気を切り裂くように荒ぶり始める。 それと同時に、剣の周囲を覆う淡い光の粒子が、フィオラの力を象徴する輝きとなり、セリュオスの持つ剣へと吸収されていった。 そして、セリュオスは一気に間合いを詰めると、オルデリウスに向かって斬りかかった。 「――嵐輝聖斬ッ!――」 風と光が渾然一体となった斬撃は、下層でガルベルを打ち破ったものだ。 燦然と輝く光風の大渦が魔王に迫る。 だが、オルデリウスは微動だにせず、突っ立ったままだった。 その身体の周囲には柔らかくも圧倒的な黒き力の波紋が広がり、セリュオスの斬撃を悉くはね返していく。 そして、セリュオスの剣が空を切る音だけが闘技場に響いた。「……勇者セリュオスよ、その程度ではあるまい?」 オルデリウスの声は穏やかだが、その瞳には確かな威圧がある。「その風の力は、確かに強い。友の想いを感じる強き力だ。しかし、我には通用せぬ!」 魔王が再び闇の力を解き放つと、今度はまるで大地が波打つようにセリュオスたちに向かってきた。 「……っ!」 一瞬の出来事にセリュオスは考える隙もなく、ダルクの力を発動させることにした。「――衝破、煌轟羅!――」 セリュオスは驚きと焦りの中で、仲間たちを守る大地の盾を出現させる。 ダルクの鳶色の盾が漆黒の闇を防ぐ。 セリュオスの全力でもって仲間を守ろうとするその姿は、生き様のようだった。「みんな! 無事か!?」 「アンタが守ってくれたからね」 ヴァルディルとエレージアも頷いて、無傷を知ら
上層世界の天壁は、蛍晶鉱石によってうっすらと明るみ始めていた。 ほんのりと冷たい風が城の外から吹き込んで、空気には緊張感が漂う。 魔王城の大広間には、魔王討伐に向かうセリュオス、エレージア、ルキシアナ、ゼルフ3号がすでに揃っており、最終確認をしているところだった。 そこへ一人の大柄な男――ヴァルディルがやって来た。 ヴァルディルはただ黙ってセリュオスに近づいて来る。 その表情に気づいた瞬間、セリュオスは声を掛けるのを躊躇した。 普段は冷静沈着な彼の表情に、今は少しの緊張と決意が滲んでいるように見えたからだ。「……セリュオス、俺から頼みがある」 ヴァルディルの声は穏やかだが、確かな意思が込められていた。「何だよ改まって。俺に頼み?」 「……俺も、魔王との戦いに参加させてくれないか?」 すると、ルキシアナが驚いたように目を見開く。「アンタが……? まさか、図体がデカいからって、足手纏いになることはないとか思ってないでしょうね?」 「ルキシアナ、あなたねぇ……」 ヴァルディルの巨体にさえ果敢に迫るルキシアナに呆れているのはエレージアだ。「そんなつもりは毛頭ない」 ヴァルディルは静かに首を横に振る。「確かに、俺の力だけでは魔王オルデリウスには遠く及ばないだろう。だが、我々もここまで来て何もしないわけにはいくまい。ネラフィムの代表だけでなく、勇者の仲間として、責任を持って戦うつもりだ」 セリュオスはヴァルディルの勇猛な眼差しを見据えた。 目の前の男の決意は本物だ。 普段は冷静で計算高い男が、この瞬間だけは自分の意思を前面に出していることを、セリュオスは感じ取った。「……ヴァルディルの実力は知っている。むしろ、俺からも頼みたいくらいだ」 そう真剣に告げたセリュオスは、ルキシアナに向かって頭を下げる。 セリュオスとルキシアナを交互に見つめているのはゼルフだ。 「どうするでありますか、マスター?」 「何よ! セリュオスがいいって言うなら、ウチは別にいいわよ!」 すると、ルキシアナは投げやりになってしゃがみ込んでしまった。「ごめんね、ルキシアナ。でも、ヴァルディルの力とリーダーシップは、絶対に必要よ」 エレージアはルキシアナを